厚生労働省は2026年7月28日、第75回中央最低賃金審議会で令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安を答申しました厚生労働省 発表資料)。目安どおりに改定されれば、全国加重平均は1,176円、上昇額は55円になります。結論:飲食店にとって「人が口頭で説明している時間の単価が上がる」という話です。特にインバウンド客への外国語対応は、これまで見えにくかった分だけ、これからコストとして可視化されていきます。

何が起きたか

今回の目安は、7月28日開催の第75回中央最低賃金審議会で答申されました(厚生労働省 発表資料)。都道府県は賃金水準に応じてA・B・Cの3ランクに分けられており(Aランクが最も高い区分)、今回の引上げ額の目安はAランク54円(埼玉・千葉・東京・神奈川・愛知・大阪の6都府県)、Bランク56円(28道府県)、Cランク56円(13県)でした。

目安どおりに改定された場合、全国加重平均は1,176円、上昇額は55円(昨年度は66円)、引上げ率は4.9%(昨年度は6.3%)になります。今後は各地方最低賃金審議会が調査審議のうえで答申し、各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定する流れです。発効日は現時点の発表資料に記載がなく、未確定です。

なぜ重要か

最低賃金の引き上げは、「時給がいくら上がるか」だけでなく「1分あたりの人件費がいくらになるか」で現場に効いてきます。飲食店の接客では、外国人のお客様に料理の内容や食べ方を説明するのに、1組あたり数分から十数分かかることが珍しくありません。これまで「サービスの範囲」として原価に数えてこなかったその時間が、賃金の上昇とともに無視できない金額に変わっていきます。

例えば、時給1,176円は1分あたり約19.6円です。1組の説明に10分かかるなら約196円、1日10組を接客すれば約1,960円、月30日営業なら約5.9万円という計算になります(実際の人件費には法定福利費なども加わるため、あくまで目安の試算です)。

今回の目安でもう一つ目を引くのは、AランクよりB・Cランクの上げ幅が大きいという逆転です。大都市を含むAランクが54円である一方、地方を多く含むB・Cランクは56円でした。一方で日本政府観光局(JNTO)が発表した2026年6月の訪日外客数推計では、韓国・台湾・米国・英国など15市場が6月として過去最高を更新しています。つまり今年は、地方の店ほど「賃金の上げ幅が大きい」ことと「客層が多様化する」ことが同時に来る、という重なりが起きているのが特徴です。

「人を増やして対応する」ことの限界は、昨日の記事で新規求人統計をもとに扱いました。今日の切り口はそれとは別の角度で、「1人あたりの時間の値段が上がる」という話です。スタッフを増やす・増やさないに関わらず、今いる1人の1分の価値が上がっていくという意味では、規模を問わずどの店にも関係のある変化です。

飲食店は何をすべきか

①まず「時間」を測る
外国人のお客様1組あたりの説明時間を、1週間だけストップウォッチで記録してみます。特別な集計ツールは要りません。感覚ではなく分単位の数字で持つことが最初の一歩です。

②繰り返される質問を人から外す
「豚肉は入っているか」「辛いか」「食べ方は」など、同じ質問が何度も出るなら、その分だけ紙・掲示・写真など人手を介さない形に移す余地があります。特定の道具を前提にせず、まずは自店に今あるものからで十分です。

③秋の値付け・シフトを今のうちに逆算する
各都道府県の実際の最低賃金額は、これから地方最低賃金審議会を経て決まります。決まってから慌てないよう、値付けやシフトへの影響を今のうちに試算しておくと安心です。設備投資を伴う賃上げには、厚生労働省の「業務改善助成金」という制度もあります(対象要件・助成額は公式資料でご確認ください)。

その他の注目ニュース

(a) 訪日外客数、6月は314万8,600人・前年同月比6.8%減
日本政府観光局(JNTO)が2026年7月15日発表した推計値によると、6月の訪日外客数は3,148,600人(前年同月比▲6.8%)、1〜6月累計は21,084,800人でした。一方で韓国・台湾・米国・英国など15市場は6月として過去最高を更新しています。so what:全体は減っても、店に来る客の国籍構成はむしろ広がっているということです。(出典:JNTO 2026年7月15日)

(b) 訪日消費額2兆5,096億円、一人当たり支出は24.4万円
観光庁が2026年7月15日発表した2026年4-6月期(1次速報)によると、訪日外国人旅行消費額は2兆5,096億円(前年同期比+0.2%)、一人当たり旅行支出は24.4万円(同+3.3%)。消費額上位は米国・台湾・中国・韓国・香港でした。so what:客数の増減以上に、一人あたりが使う金額が伸びているということです。(出典:観光庁 2026年7月15日)

(c) 業務改善助成金という制度もある
厚生労働省は、事業場内で最も低い賃金を引き上げ、あわせて生産性向上に資する設備投資などを行った中小企業・小規模事業者向けに、費用の一部を助成する「業務改善助成金」を案内しています。助成額・要件・申請時期はコースによって異なるため、公式資料での確認が必要です。so what:賃上げの負担を一人で抱え込む前に、公的な支援制度の有無を先に確認する価値があるということです。(出典:厚生労働省)

参考

参考: 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74920.html

参考: 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年6月推計値)」(2026年7月15日)
https://www.jnto.go.jp/news/press/20260715_monthly.html

参考: 観光庁「インバウンド消費動向調査 2026年4-6月期(1次速報)」(2026年7月15日)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_00094.html

参考: 厚生労働省「令和8年度業務改善助成金のご案内」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001693416.pdf