厚生労働省は2026年7月31日、「一般職業紹介状況(令和8年6月分)」を公表しました厚生労働省 発表資料)。産業別の新規求人(前年同月比)を見ると、宿泊業,飲食サービス業は+5.4%増加しています。結論:飲食店にとって「求人を増やしても、以前のように人手不足を穴埋めできなくなっている」という話です。

何が起きたか

厚生労働省の発表によると、有効求人倍率(季節調整値。ハローワークに登録されている求人数を求職者数で割った指標で、1を超えるほど求人が求職者より多い状態)は1.18倍で、前月比+0.01ポイント。新規求人倍率(その月に新しく出た求人だけで計算した倍率)は2.16倍で、前月比+0.05ポイントでした。正社員に限った有効求人倍率も1.00倍で、前月比+0.01ポイントです。6月の新規求人(原数値)は全産業合計で前年同月比+3.1%でした。

産業別の新規求人(前年同月比、原数値)では、サービス業(他に分類されないもの)が+11.5%、製造業が+10.4%と増加が目立つ中、宿泊業,飲食サービス業も+5.4%増えました。一方で情報通信業は−6.4%、卸売業,小売業は−2.6%、教育,学習支援業は−2.2%と減少しています。同日公表された総務省の労働力調査でも、完全失業率(季節調整値)は2.5%で前月と同率、完全失業者数は178万人で前年同月比+2万人・11か月連続の増加となりました。

なぜ重要か

一見すると「宿泊・飲食の求人が増えている=人手不足が深刻化している」という話に見えます。しかし発表を仔細に見ると、もう一段深い構造が浮かび上がります。

まず、求人の総量そのものは前年より減っています。月間有効求人数は2,227,721人で前年同月比−2.8%、有効求人倍率の季節調整値も前年同月(令和7年6月)の1.22倍から今回1.18倍へと下がっています。前月比ではプラスでも、前年同月比で見れば求人市場全体はむしろ縮んでいるのです。その縮小局面の中で、情報通信業(−6.4%)や卸売業,小売業(−2.6%)が新規求人を絞る一方、宿泊業,飲食サービス業だけが+5.4%と増やしている——業種ごとに人手を求める方向がバラバラに割れているのが実態です。

しかも、求人が実際に埋まった割合はむしろ下がっています。充足率(その月の就職件数を新規求人数で割った、求人がどれだけ埋まったかを示す割合)は6月で11.6%と、前年同月の12.3%から0.7ポイント低下しました。求人を出す件数は増やせても、それが人員の確保につながる度合いは前年より弱まっているということです。

一方で完全失業者は11か月連続で増加中です。働き手そのものが枯渇しているのではなく、飲食店が出す求人と求職者が求める条件が噛み合っていない「ミスマッチ」が起きている可能性が高いということです。

ここに、日本フードサービス協会が発表した6月の外食売上データを重ねると、もう一つの視点が見えてきます。全体の売上は前年同月比103.3%でしたが、客数は100.8%とほぼ横ばいで、伸びを作っているのは客単価102.4%のほうです。客単価が上がるということは、一皿・一杯あたりに求められる説明の量(食材・調理法・アレルゲン・度数など)が増えるということでもあります。つまり現場の負荷は「客数×1人あたりの説明量」で決まり、客数が変わらなくても説明量が増えれば現場は重くなります。

求人を増やして人手で説明対応を吸収する、という発想は、これまでも簡単ではありませんでした。しかし求人を出しても以前のように人が採れない今の局面では、その前提そのものが崩れつつあります。加えて都道府県別(就業地別)の有効求人倍率は、最高の福井県1.72倍から最低の大阪府0.96倍まで開きがあり、同じ「人手不足」でも採用の難易度は地域によって倍近く違います。訪日消費が過去最高を更新した局面でも客数より1人あたりの消費額が伸びる傾向が続いており、「人を増やして対応する」から「一人あたりの対応力を上げる」への転換が、インバウンド需要を取りこぼさないための現実的な選択肢として浮上しています。

飲食店は何をすべきか

①まず1週間、「聞かれた回数」を数える
特別な集計ツールは要りません。レジ横やホールに紙を1枚置き、正の字でお客様から「聞かれた内容」をメモするだけで十分です。アレルゲン、辛さの度合い、量、豚肉・酒の有無など、聞かれる内容は店によって偏りがあります。1週間分集まれば、自店の「説明の重さ」がどこに集中しているかが見えてきます。

②上位5問をメニュー側に先回りで書く
数えて分かった上位5問は、料理名を翻訳するだけでは解決しません。「これは何の肉か」「アルコールは入っているか」「量はどのくらいか」を、メニューの説明文として先回りで足すことが有効です。NG例として、料理名をローマ字表記にしただけで満足するケースがあります。例えば「Yakitori」と書いても、どの部位の肉か、タレか塩かは伝わりません。ローマ字表記は音を伝えるだけで、意味までは伝わらないと考えたほうが安全です。

③求人を出す前に、対応コストを時給換算する
求人を検討する前に、今その場しのぎの説明対応にいくら払っているかを一度数字にしてみる価値があります。例えば、時給1,200円のスタッフが1日合計30分をお客様への説明対応に使っているとすれば、1日あたり約600円、月22営業日として計算すると月あたり約1.3万円相当のコストがかかっている計算になります(あくまで試算の一例です)。この数字が見えると、「求人を増やす」以外の選択肢を検討する土台になります。

その他の注目ニュース

(a) 完全失業率2.5%、完全失業者178万人で11か月連続増
総務省統計局が2026年7月31日発表した労働力調査(基本集計)2026年6月分によると、完全失業率(季節調整値)は2.5%で前月と同率、完全失業者数は178万人で前年同月比+2万人・11か月連続の増加でした。就業者数は6890万人(+17万人・5か月連続増)。増加業種として発表資料が挙げたのは製造業・教育,学習支援業・医療,福祉で、宿泊業,飲食サービス業の就業者数の増減は明記されていません。so what:失業者が増えているのに飲食の求人が埋まらないのは、総量ではなくミスマッチの問題だということです。(出典:総務省統計局 2026年7月31日)

(b) 外食売上103.3%、支えているのは客単価102.4%
日本フードサービス協会が2026年7月27日発表した外食産業市場動向調査2026年6月度によると、全体(230社・37,231店)の売上は前年同月比103.3%、客数100.8%、客単価102.4%。パブ・居酒屋は99.9%(うち居酒屋99.1%)と苦戦しています。so what:売上は単価で作られており、その単価を支えるのは一皿ごとの説明の質だということです。(出典:日本フードサービス協会 2026年7月27日)

(c) 有効求人倍率、最高の福井県1.72倍と最低の大阪府0.96倍
今回の厚労省発表では、都道府県別(就業地別)の有効求人倍率が最高の福井県1.72倍から最低の大阪府0.96倍まで開いています。so what:採用の難易度は全国一律ではなく、対策の優先順位も地域によって変わるということです。(出典:厚生労働省 2026年7月31日)

参考

参考: 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年6月分)について」(2026年7月31日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74767.html

参考: 総務省統計局「労働力調査(基本集計)2026年(令和8年)6月分及び4〜6月期平均」(2026年7月31日)
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.html

参考: 一般社団法人日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査 2026年6月度」(2026年7月27日)
https://www.jfnet.or.jp/wp/wp-content/uploads/2026/07/getujidata-2026-6.pdf