観光庁は2026年7月28日、「観光施設・サービス等の料金設定等に関する調査・研究会」がまとめた「ヒアリング結果のポイント」を公表しました観光庁 発表資料)。研究会は令和8年4月に立ち上げられ、駐車場・バス・文化施設・登下山道の7事例から料金設定の考え方をヒアリングしています。結論:飲食店にとって、値上げの成否は金額ではなく「根拠を説明できるか」で決まるという話です。

何が起きたか

観光庁が2026年7月28日に公表した「ヒアリング結果のポイント」は、令和8年4月に立ち上げられた「観光施設・サービス等の料金設定等に関する調査・研究会」が、7つの事例から料金設定の実務を聞き取った内容をまとめたものです。対象は駐車場2件(新倉山浅間公園・白川郷)、バス2件(京都市観光特急バス・銀山温泉シャトルバス)、文化施設2件(姫路城・東京国立博物館)、登下山道1件(富士山吉田口ルート)の計7事例。料金設定の目的は大きく「財源確保(維持管理・魅力向上)」と「混雑緩和」の2種類に整理されています。資料の前段では、令和7年推計で訪日外国人旅行者数が初めて4,000万人を突破し、訪日外国人旅行消費額は約9.5兆円、日本人国内旅行消費額は約26.8兆円と、いずれも過去最高になったことが記されています。

なぜ重要か

今回の資料でもっとも踏み込んだ内容を持つのは姫路城の事例です。姫路城は令和8年3月1日に縦覧料を改定しました。改定前は大人(18歳以上)一律1,000円でしたが、改定後は18歳以上かつ市民が1,000円、18歳以上で市民以外が2,500円、18歳未満は無料という構成に変わっています。2,500円という金額の出し方も具体的で、今後10年間(令和7〜16年)の維持管理費・保存整備費・デジタル化等の事業費を約280億円と積算し、入城者数の見込みで割り戻して一人あたり約2,500円を導いています。

ここで注目すべきは、この線引きが「国籍」ではないという点です。当初は「インバウンド料金」として外国人と日本人を区分する案が検討されましたが、議会や有識者の意見を踏まえ、最終的には「市民料金」として市民とそれ以外を区分する形に落ち着きました。理由は、市民がすでに市税や景観規制など多重の負担を負っているという公平性の考慮です。運用面では、デジタルチケットシステムの導入によって判定はアプリ上で完結し、現場ではマイナンバーカードや運転免許証で市民であることを証明してもらう運用に大きな混乱なく移行できたとされています。

つまり公的な事例が線を引いたのは「国籍」ではなく、「すでにその施設のために負担しているかどうか」でした。飲食店が「外国人価格」を検討するなら、属性そのもので料金を分ける根拠は、公的な料金設定の事例の中にすら存在しないということになります。根拠が成立するのは、座席・時間帯・提供内容といった、誰にでも当てはまる差だけです。

もう一本、東京国立博物館の事例も同じ方向を指しています。令和2年4月の入館料改定(一般620円→1,000円)による増収分は、4言語によるキャプションなど展示解説の充実に充てられ、改定の背景を公式サイト上で2回にわたって発信し、理解を得る努力をしています。値上げの説明と多言語対応が、一本の線でつながっているわけです。

そして飲食店との間には決定的な非対称があります。姫路城は改定の1年前に条例を改正し、周知期間を確保しました。白川郷も条例改正から施行まで約半年です。飲食店にその猶予はありません。券売機とメニューを差し替えれば、値上げは翌日から効力を持ちます。だから飲食店の説明は「事前の周知」ではなく「メニューの上」でやるしかありません。そして客の一定割合が訪日客であれば、その説明は日本語だけでは届かないということになります。

飲食店は何をすべきか

①値上げの根拠を1行で持つ
姫路城型は、必要経費から逆算する方法です。飲食店であれば、仕入れがいくら上がったかを品目単位で把握し、「例えば」と明示したうえで単純な算数として示します。帝国データバンクによれば、2026年8月の飲食料品値上げは2,311品目で、前年同月の1,262品目から8割増。平均値上げ率は月平均15%です。9月はさらに4,531品目が予定されており、要因は原材料高90.9%、物流費65.8%、包装・資材64.0%となっています(帝国データバンク)。値上げの説明文は、次の値上げが来る前に用意しておく必要があります。

②「外国人価格」ではなく提供内容の差で設計する
姫路城が国籍による線引きを避けた事実を踏まえると、多言語メニューやアレルゲン確認は「外国人だから課金する対象」ではなく、全員に同じ条件で提供する前提のものとして扱うべきだとわかります。料金に差をつけるのであれば、座席・時間帯・サービス内容など、誰にでも当てはまる軸に置く必要があります。

③使い道を書く
白川郷は増収分を駐車場の全面改修やトイレの建て替えに、東京国立博物館は展示解説の多言語化に充て、それぞれ対外的に発信しています。飲食店であれば「値上げ分は◯◯に使います」の一行をメニューか店頭に置くだけでよいはずです。そして訪日客にも読ませるつもりなら、その一行こそ日本語だけでなく多言語で用意する必要があります。

その他の注目ニュース

(a) 8月の食品値上げは2,311品目、9月はさらに増える
帝国データバンクが2026年7月31日公表の「『食品主要195社』価格改定動向調査 ― 2026年8月」によると、8月の飲食料品値上げは2,311品目(前年同月1,262品目から8割増)、平均値上げ率は月平均15%。9月は4,531品目が予定されています。so what:仕入れ値上げが9月にもう一段来るので、値上げの説明文は今のうちに作っておくということです。(帝国データバンク

(b) 育成就労制度、外食業も対象に
農林水産省が2026年8月3日、「育成就労制度オンライン説明会における質問について」を掲載しました。育成就労制度は出入国在留管理庁によれば一部の規定を除き令和9年(2027年)4月1日施行で、外食業も対象分野に含まれます(7月10日には外食業分野の運用要領も公表済み)。なお特定技能「外食業分野」は受入れ上限5万人に達する見込みとして、2026年4月13日以降に受理した在留資格認定証明書交付申請を不交付とする措置が続いています(2026年2月末で約4万6千人)。so what:ホールや厨房に日本語がまだ得意でないスタッフが入る前提が制度化されるということです。メニューの説明を日本語の口伝えに頼る運用は続きません。(農林水産省出入国在留管理庁

(c) 食品表示基準の改正が消費者委員会に諮問
消費者庁が2026年7月17日、「食品表示法に基づく食品表示基準の一部改正に係る消費者委員会への諮問について」を公表しました。7月1日には食品表示基準の一部を改正する内閣府令(案)の意見募集も行われています。so what:表示ルールは動く前提だということです。アレルゲン情報はメニューのデザインに埋め込まず、後から書き換えられる形で持っておく必要があります。(消費者庁

参考

参考: 観光庁「観光施設・サービス等の料金設定等に関する調査・研究会『ヒアリング結果のポイント』公表について」(2026年7月28日)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/news08_00047.html

参考: 観光庁「ヒアリング結果のポイント」(令和8年7月)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/002013843.pdf

参考: 帝国データバンク「『食品主要195社』価格改定動向調査 ― 2026年8月」(2026年7月31日)
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260731-neage26y08/