農林水産省は2026年7月31日、食文化の海外展開・インバウンド拡大に取り組む外食事業者および地方公共団体の募集を発表しました(農林水産省 発表資料)。募集の受付は2026年8月3日から始まります。結論:飲食店にとっては、名前がよく似た2つの枠のうち、店が自分で応募できるのは海外展開を予定する事業者向けの枠だけで、しかも締切まで19日間しかない、という話です。
何が起きたか
農林水産省は、食文化産業振興ワーキンググループがまとめた内容を着実に実施するため、2つのチームを結成しました。ひとつは「外食事業者の海外展開拡大チーム」(輸出・国際局海外需要開拓グループが担当)で、海外展開を予定している外食事業者(テイクアウトを含む)を対象に、2026年8月3日から8月21日まで募集します。もうひとつは「インバウンド拡大チーム」(大臣官房新事業・食品産業部 外食・食文化課が担当)で、こちらの対象は地方公共団体です。飲食店の個社が直接応募する枠ではありません。募集期間は第1期が8月3日から9月11日、第2期が9月24日から10月30日の2回に分かれています。
なぜ重要か
まず気をつけたいのは、名前の紛らわしさです。「インバウンド拡大チーム」という名前だけを見ると、訪日客対応をしている飲食店が応募したくなりますが、対象は地方公共団体で、飲食店は直接応募できません。店が自分の意思で応募できるのは海外展開拡大チームの枠だけで、しかも受付は19日間しかありません。応募条件も3つあり、(1)2030年までに食品産業の海外展開による収益額を3兆円とする等の政府目標の実現に寄与する海外多店舗展開等を予定していること、(2)海外の店舗で日本産の農林水産物・食品、特に米等の輸出重点品目を使う予定があること、(3)輸出支援プラットフォームが設置された10か国・地域16拠点で事業を拡大する場合は、そのプラットフォーム事業やグローバル・フードバリューチェーン推進官民協議会の活動に積極的に参画・連携する意思があること、です。海外に多店舗展開する計画があり、しかも国産食材を使う予定がある店、という時点で対象はかなり絞られます。
取りまとめ資料が示した課題認識も見ておく価値があります。資料は「地域の食や食文化を生かしきれておらず、客単価の引上げや消費額の拡大が図られていない」と指摘し、ヒアリングを踏まえた課題として「色々なものがありすぎて逆に特色が弱い。地域の素材を魅力的に見せる仕組みづくりに課題」と書いています。素材が無いから稼げていないのではなく、素材はあるのに魅力的に見せる説明が届いていない、という読み方ができます。「食を含めた訪日外国人の消費は都市部に集中」しているという指摘もあわせて記されています。
この課題認識を、日本フードサービス協会が2026年7月27日に発表した6月度の外食産業市場動向調査と突き合わせると、輪郭がはっきりします。全店データ(230社・37,231店舗)は、売上高が前年同月比103.3%、店舗数101.5%、客数100.8%、客単価102.4%でした。売上を押し上げているのは、客数の伸び(100.8%)ではなく客単価の伸び(102.4%)です。協会自身も「台風や曜日回りで客数失速、客単価で支えられる」と総括しています。客数が横ばいの局面で単価が売上を支える、という構図は、農水省が指摘する「客単価の引上げが図られていない」という課題と同じ方向を向いています。単価で支える局面では、「なぜこの値段なのか」をお客様に伝えられるかどうかが効いてきます。訪日客が相手だと、その説明はまず言語の壁で止まります。
飲食店は何をすべきか
①海外展開の予定がある店は、8月21日までに応募を判断する
応募条件の3つ(海外多店舗展開の予定、海外店舗での日本産食材使用予定、該当する場合はプラットフォーム事業への参画意思)を満たすか確認します。審査は書類審査から面接、最終選考へと進み、採択されると農水省職員が人事異動によらず5年間程度、1社あたり2名程度で伴走支援する体制です。
②予定が無い店は、自治体経由で乗る道もある
インバウンド拡大チームは地方公共団体が窓口なので、自店が拠点を置く市町村の観光・商工担当に、地域として応募する予定があるか確認してみます。募集は第1期(9月11日締切)と第2期(10月30日締切)の2回チャンスがあります。
③どちらにも乗らない店でも、今日からできることがある
看板料理を「地域の食文化としての説明」として、1品ずつ日本語で書き出しておくことです。農水省が「特色が弱い」と言っているのは素材の話ではなく、説明の側の話だからです。
(a) 「多様な食習慣」対応のモデル事業、全国10案件を採択
観光庁が2026年7月10日、「多様な食習慣や文化的慣習を持つ訪日外国人旅行者の受入環境整備」モデル事業の採択結果を公表し、全国から10案件を選定しました。公募期間は4月14日〜6月8日で、地方公共団体やDMOを中心とした実証事業です。so what:受入環境整備は自治体・DMO主導ですでに動いており、飲食店が直接関われる公募枠は限られるということです。(出典:観光庁)
(b) 6月の外食産業、客数ではなく客単価が売上を支えた
日本フードサービス協会が2026年7月27日発表の6月度調査で、全店売上高は前年同月比103.3%でした。度重なる台風接近と土日の少ない曜日回りで客数が失速し、客単価の上昇と店舗増が売上を支えた形です。so what:客数ではなく客単価で売上を支える局面が、すでに始まっているということです。(出典:一般社団法人日本フードサービス協会)
参考: 農林水産省「食文化の海外展開・インバウンド拡大に取り組む外食事業者及び地方公共団体を募集・支援します」(2026年7月31日)
https://www.maff.go.jp/j/press/shokuhin/kikaku/260731.html
参考: 観光庁「『多様な食習慣や文化的慣習を持つ訪日外国人旅行者の受入環境整備に向けたモデル事業』における採択結果のお知らせ」(2026年7月10日)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/kobo08_00067.html
参考: 一般社団法人日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査 2026年6月度 結果報告」(2026年7月27日)
https://www.jfnet.or.jp/wp/wp-content/uploads/2026/07/getujidata-2026-6.pdf

