結論から言うと、食物アレルギーの表示義務がある品目(特定原材料)は、2026年7月時点で「9品目」です。2023年3月9日公布の消費者庁による食品表示基準改正で、2025年4月1日にくるみが加わって8品目に、さらに2026年4月1日にカシューナッツが加わって9品目になりました。ネット上の記事によって「7品目」「8品目」、時には「28品目」という数字まで出てくるのは、書かれた時期・経過措置・義務と推奨の合算という3つの理由でズレているからです。この記事でわかること: ①今の正しい品目数と、なぜ数字がバラつくのかの整理 ②2026年4月の改正で何が変わったのか ③訪日客の宗教・体質対応の実態と、飲食店が今すぐできる対応です。
1. 食物アレルギー表示とは
食物アレルギー表示は、食品表示基準(消費者庁)にもとづき、加工食品のパッケージなどに特定の原材料を含むことを表示するルールです。表示のされ方には、実は「義務」と「推奨」の2階層があります。
- 特定原材料(義務表示)——表示しなければならない品目。違反すると食品表示基準上の是正対象になります。
- 特定原材料に準ずるもの(推奨表示)——表示が望ましいとされる品目。ただし義務ではなく、事業者の任意です。
この記事で扱う「品目数」は、基本的に前者の特定原材料(義務表示)の話です。ここを分けて考えないと、後述するように数字が簡単にズレます。なお、この表示ルールの土台になっているのが食品表示基準です。食品表示法にもとづいて消費者庁が定める基準で、アレルギー表示だけでなく原材料名・添加物・栄養成分表示など、加工食品のパッケージ表示全体をカバーしています。
| 時期 | 義務品目数 | できごと |
|---|---|---|
| 〜2025年3月31日 | 7 | えび・かに・小麦・そば・卵・乳・落花生 |
| 2025年4月1日〜 | 8 | くるみが完全施行で追加(2023年3月9日公布・経過措置は2025年3月31日まで) |
| 2026年4月1日〜 | 9 | カシューナッツが追加(経過措置は2028年3月31日まで) |
出典:消費者庁の食品表示基準改正を報じた日本惣菜協会・foocom.netの発表内容にもとづき作成。
2. 品目数が「8」「9」「28」とバラつく理由
ここがこの記事の核心です。同じ「アレルギー表示」の話をしているのに、記事によって品目数が違って見えるのは、次の3つが独立に動いているからです。
理由①:施行日の違い
2025年4月1日を境に7品目→8品目、2026年4月1日を境に8品目→9品目に変わりました。記事がいつ書かれたかで、そのまま数字が変わります。
理由②:経過措置期間
経過措置とは、新ルールが決まってから実際に全商品のパッケージに反映されるまでの猶予期間のことです。カシューナッツは2028年3月31日まで経過措置があり、その間は旧表示のままの商品が店頭にあっても違反になりません。つまり「9品目時代」に入っても、現場のパッケージ表示が追いつくには最大2年かかるということです。
理由③:義務と推奨の合算
特定原材料(義務、現在9品目)と、特定原材料に準ずるもの(推奨、現在20品目)を分けずに合計して紹介する記事があります。2025年4月〜2026年3月の間に書かれた記事は「8+20=28品目」と紹介していたものが多く、これが今もネットに残っている「28品目」という数字の正体だと考えられます。今の時点で同じ数え方をすれば「9+20=29品目」になります。
「今、義務は何品目?」と聞かれたら答えは9品目。「28品目」「29品目」という数字を見たら、それは義務と推奨を合算した数字だと考えて間違いありません。定義(義務か推奨か)・時期(いつの時点か)・経過措置の有無、この3点を確認すれば、どの数字も矛盾なく説明がつきます。逆に言えば、この3点を確認せずに数字だけを丸暗記すると、半年後には別の記事とまた数字が食い違って見えてしまう、ということでもあります。
3. 2026年4月に何が変わったか——カシューナッツ義務化の中身
2026年4月1日の改正で、カシューナッツが特定原材料に追加されました。この改正の背景には、消費者庁が実施した調査でのアレルギー健康被害の実態があります。日本経済新聞(2025年4月17日付)の報道によれば、消費者庁調査で2023年に報告された食物アレルギー健康被害は約6,000症例、そのうち原因の24.6%を木の実類が占め、鶏卵(26.7%)に次ぐ2位でした。木の実類の内訳ではカシューナッツが279例と、2020年の前回調査から6割増加しており、アナフィラキシーなどの重篤例も37件報告されています。
一方で、特定原材料に準ずるもの(推奨表示)は、同じ2026年4月1日にピスタチオが追加され、カシューナッツが義務側に移った分と入れ替わる形で20品目のままとなっています。マカダミアナッツは2024年3月28日に追加、まつたけは同日削除されており、この推奨リストも数年単位で入れ替わっていることが分かります。品目リストの細部は改正のたびに動くため、正確な最新リストは消費者庁の発表を都度確認するのが確実です。
飲食店の現場に引き寄せると、天ぷらの衣や和菓子の生地にくるみやカシューナッツが練り込まれていても、見た目だけでは外国人のお客様はもちろん日本人のお客様でも気づきにくいものです。義務表示の対象品目が増えるということは、それだけ「見た目では分からない食材」が増えるということでもあり、メニュー側の説明もそのつど更新していく必要が出てきます。
| 区分 | 特定原材料(義務) | 特定原材料に準ずるもの(推奨) |
|---|---|---|
| 表示義務 | あり | なし(任意) |
| 品目数(2026年7月時点) | 9 | 20 |
| 代表的な品目 | えび・かに・くるみ・小麦・そば・卵・乳・落花生・カシューナッツ | アーモンド・大豆・ごま・りんご・ゼラチン・ピスタチオ 等 |
4. 訪日客の宗教・体質対応の現場実態
表示ルールが毎年のように動く一方で、対応すべき客層は増え続けています。観光庁「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド」(令和6年4月、観光庁参事官(外客受入担当)発行)は、この実態を数字で示しています。
まず、訪日ベジタリアン・ヴィーガンの約4割は、海外旅行中は食事の基準を緩める傾向があると報告されています。ただし訪日経験者に限ると、約7割が「基準を緩めなかった」と回答しました。つまり、実際に日本に来た人ほど、食の制限を厳格に守ろうとする割合が高いということです。「海外なら多少ゆるくていい」と考える人は一定数いても、いざ来日すると譲れない人の方が多い、という逆説的なデータです。
もう一つの軸がムスリム(イスラム教徒)です。ハラール(イスラム法で許された食べ物や作法を指す言葉)に対応した食事を求める訪日客は、東南アジア・中東で増加傾向にあります。同ガイドによれば、インドネシアからのムスリム訪日客数は2012年の12万人から2019年には41万人へと、約4倍に増加しました。マレーシア・インドネシア・中東からの訪日客は今後も増加が見込まれています。
この2つのデータを重ねると、「表示・対応のルールは細かく変わり続けるが、宗教やアレルギーで食べられないものがある客の絶対数は増えている」という構造が見えてきます。ルールの変化を追いかけるコストと、対応できないことで取りこぼす機会、その両方が同時に大きくなっているということです。
この配慮は、来店後だけの話ではありません。旅行者は来日前の「旅マエ」(出発前にスマホやOTA・口コミサイトで行き先や店を調べる段階のこと)の時点で、対応可能な店かどうかを比較検討しています。ハラールやアレルギーへの対応情報が来店前に見つからなければ、その店はそもそも検討の候補にすら入らない可能性があるということです。
5. 飲食店が今すぐできる3つの対応
数十店舗規模の飲食店で多言語メニュー制作を支援してきた現場の経験から、実務で効いている対応を3つ紹介します。
①原材料名から機械的に判断できる範囲だけを表示し、憶測では書かない
「たぶん入っていないと思う」という感覚での案内はやめ、原材料表示や仕入れ先の情報から客観的に確認できることだけを書く、という設計方針を徹底することです。分からないものは「分からない」と正直に扱う方が、結果的にお店を守ります。
②「これ食べられますか」を、命・信仰に関わる質問として扱う
現場で最も危険なのは、悪気なく答える「たぶん大丈夫です」です。アレルギーは体調を崩すだけでなく重篤な症状につながることがあり、宗教食は信仰そのものに関わります。スタッフ全員が「分からなければ確認する」を徹底できる社内ルールが必要です。
③メニュー本体・多言語ページ・店内掲示の同期ルールを決めておく
アレルゲン情報を複数の場所(紙メニュー・多言語ページ・卓上掲示など)に書いている店ほど、1箇所を更新して他が古いままという食い違いが起きやすくなります。どこかを更新したら、他のどこを必ず一緒に直すか、事前にリストにしておくと事故が減ります。特に、今回のような義務品目の追加(くるみ・カシューナッツ)があったときは、更新対象の一覧をあらかじめ用意しておくと、確認漏れの箇所を探す手間が省けます。
6. やってしまいがちなNGパターン
ここまでの内容を踏まえ、現場で実際に起きやすい、避けたい対応を挙げます。どれも「悪気はないのに事故につながる」という共通点があります。
- 「たぶん入ってないと思います」で案内する——確認していないことを、確認したかのように答えてしまうパターン。悪気がなくても、事故が起きればお店の信頼が一瞬で崩れます。
- 本体メニューだけ直して、多言語ページや店内掲示を放置する——アレルゲン情報を更新したのに、多言語ページや卓上POPが古い表示のまま残ってしまうパターン。言語ごとに情報が食い違う原因になります。
- 確認できない食材を「ハラール対応」と自己判断で書いてしまう——ハラールは調理器具の共用や認証の有無まで関わる宗教上の話です。裏付けなく「対応可」と表記するのは、かえって信頼を損なうリスクがあります。
- 経過措置期間中の情報を見て「もう変わらない」と思い込む——旧表示のままの商品が流通している期間は次の改正が来ないという意味ではありません。経過措置はあくまで猶予であり、次の改正情報は継続して確認する必要があります。
- 義務品目と推奨品目を混同したまま社内共有する——「うちは9品目対応済み」のつもりが、実際には推奨品目の一部しか確認していなかった、という食い違いも起こりがちです。義務と推奨を分けて管理しておくことが、社内の思い込みを防ぎます。
7. FAQ
Q. 食物アレルギーの表示義務がある品目は、今何品目ですか?
A. 2026年7月時点では9品目です。えび・かに・くるみ・小麦・そば・卵・乳・落花生の8品目に、2026年4月1日からカシューナッツが加わりました。
Q. 「経過措置」とは何ですか?
A. 新しい表示ルールが決まってから、すべての商品パッケージに反映されるまでの猶予期間のことです。カシューナッツの経過措置は2028年3月31日までです。
Q. 特定原材料と、特定原材料に準ずるものの違いは何ですか?
A. 特定原材料(現在9品目)は表示が義務、特定原材料に準ずるもの(現在20品目)は表示が推奨されているだけで任意です。
Q. ネットで「7品目」「8品目」「28品目」など数字がバラバラなのはなぜですか?
A. 施行日の違い、経過措置期間中の旧表示の混在、義務と推奨を合算した紹介(8+20=28など)という3つの理由が重なっているためです。
Q. ハラール対応とアレルギー対応は同じ考え方でいいですか?
A. 別物として扱うべきです。アレルギーは原材料名から機械的に判断できる範囲がありますが、ハラールは宗教上の戒律に関わり、自己判断での断定表記は危険です。
Q. 訪日客の宗教やアレルギーへの配慮は法律で義務付けられていますか?
A. 飲食店に法的義務はありません。ただし訪日経験者の約7割が食の基準を緩めなかったという観光庁データがあり、対応の有無が選ばれる理由になり得ます。
Q. 多言語メニューにアレルギー情報を載せる際に気をつけることは?
A. 機械的に判断できる範囲だけを記載し、憶測で埋めないこと。複数箇所に同じ情報を書く場合は、更新ルールを決めておくことです。
8. まとめ
食物アレルギー表示の義務品目は、2026年7月時点で9品目です。ネット上で見かける「7」「8」「28」といった数字は、いずれも間違いではなく、施行日・経過措置・義務と推奨の合算という切り口の違いから生まれています。数字だけを追いかけるより、「今、義務は何品目か」「その情報はいつの時点のものか」を確認する習慣の方が実務では役立ちます。
あわせて、訪日客の宗教・アレルギー対応への配慮は、ルールが変わり続ける中でも、対応する店としない店の差になりつつあります。「たぶん大丈夫」をなくし、確認できることだけを正確に伝える。それが、お客様とお店の両方を守る一番の近道です。義務品目は今後も増える可能性があるので、次の改正が来たときに慌てないよう、義務と推奨を分けて管理する習慣を、今のうちに社内に作っておくことをおすすめします。
参考: 一般社団法人日本惣菜協会「消費者庁 食品表示基準等の一部改正について」(2026年4月2日)
https://www.nsouzai-kyoukai.or.jp/news/20260402/
参考: foocom.net「食品表示基準等改正 カシューナッツが特定原材料に追加」
https://foocom.net/secretariat/foodlabeling/26173/
参考: 観光庁「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド」(令和6年4月)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001740443.pdf



